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tsukuru*hito (ツクルヒト)

tsukuruhito file #14

がんを患い、治療の副作用で髪が抜ける。沈んだ表情を笑顔に変える、専門美容室。

株式会社PEER / 代表取締役 / 佐藤 真琴

Webメディアの企画・運営を手掛ける『PrmaCeed』の代表・岩田彰人が、さまざまな業界のキーパーソンと対談するこの企画。 今回のお相手は、がん治療の副作用で髪が抜けてしまった方や脱毛症、無毛症などに悩む方々に対して市場価格の20分の1(5~6万円)でウィッグを提供している、株式会社PEER(ピア)の代表取締役・佐藤真琴さんです。 同社が運営する「専門美容室ピア」では脱毛時期の過ごし方を一緒に考え、1人ひとりに合ったウィッグとヘアスタイルを提案しており、いまでは全国から年間1,000人が相談に訪れるほど。そして、佐藤さんは全国の美容室とノウハウを共有することでがん患者支援の仕組みづくりも手掛け、2009年には『女性起業家大賞』や『日経ウーマンオブザイヤー』などを次々と受賞します。 その華々しい経歴から数多くの取材を受けてきた佐藤さんですが、今回の対談は「どのような幼少期を過ごしてきたのか」、「今後どのような展開を考えているのか」など、これまであまり語られなかった部分にもフォーカスをあて進行しました。佐藤さんの人となり、そして、医療と生きるすべての人たちへの力強いメッセージをお伝えします。

Chapter 2「ウィッグはいらない」起業のきっかけとなった白血病患者の決断。

岩田高校卒業後に看護学校へ入学し、看護師の資格を取ってから病院などへ就職するのが一般的なルートだと思いますが、大学と社会人を経験してから看護学校に入学すると他の学生とは見える景色がまったく違うでしょうね。

佐藤入学してすぐ、実習で白血病の女性患者さんを受け持つことになりました。その方は当時51歳で私の母親と同じ年齢。しかも、私の祖母も白血病だったんです。

岩田それは運命めいた出会いですね。

佐藤すごく可愛がってもらい、まだ半人前の私にも何でも話してくれていました。白血病はがんと同じように治療の副作用で脱毛が起きるので、ある日、外出時に着用できるウィッグがないだろうかと相談を受けたんです。「誰からも二度見されることなく、以前の姿で束の間の日常を過ごしたい」と願うのは、とても普通のこと。でも、当時の私はウィッグにもオシャレ用と医療用の2種類があることすら知らず、病院にはカツラ業者が置いていった“値段の書いていない”チラシが置いてあるだけでした。

岩田値段が書いてなかったんですか。

佐藤その女性患者がチラシの業者に電話をしたら、100万円くらいすると言われたんです。


岩田車でもないのに、そんな高額の数字をチラシには書けなかったんですね。

佐藤白血病やがんを患った場合、高額療養費制度を利用できます。これは年齢や収入に応じて上限額を超えた医療費がキャッシュバックされる制度ですが、当時は一旦全額を支払った上での払い戻しだったので、一時的にキャッシュフローが悪くなるんです。また、治療を続けていけばどうしても出費は増えていくもの。それなのに、容易に以前の姿に戻ることすら叶わない。その女性患者さんは、結局ウィッグの購入を諦めました。その時、何と言ったと思います?

岩田こんなに高くては手が出せない、とか?

佐藤逆です。「家族に“欲しい”と言えば、きっと買ってくれる。でも、これから死んでいく私がお金を使えば、生き続ける家族の負担になってしまう。だから、私がウィッグを欲しいと言ったことは家族には黙っておいてくれ」そう言われたんです。

岩田それは……やりきれないですね。

佐藤もう憤りしかありませんでした。患者さんは束の間の外出時に誰からも心配されない姿になりたいだけなのに、そのためには法外な金額が要求される。そして、買い慣れていないモノを購入するかどうかプレッシャーのかかる場で決断しなければならない。白血病やがん患者は大勢いるのでマーケットはあるじゃないですか。普通、マーケットがあればいろいろなモノがつくられ、価格にも市場原理が働くはずなのに、病院内には市場原理が働いていなかったんです。

岩田そうした経緯があったから、自分で格安のウィッグを提供できないかと思い立ったんですか。

佐藤私はもともと社会学が好きなんですが、社会学は「このまま行けば社会は破綻する」という警鐘に対して、「では破綻させないためにどのような対策を取るか」と考えるもの。この状況を変えなければならない、と強く思いました。それに、いくら何でも約100万円なんて高すぎますよ。その金額を知った時、思わず母親に電話して「私はお母さんの髪の毛が抜けてもウィッグを買ってあげられない」と言ったんです。そしたら、「ろくでなし!」と怒られました(笑)

岩田お母さんも看護師としていろいろなケースを見てきたでしょうし、瞬間的に「なんて酷い娘だ」と思ってしまったんでしょうね(笑)

佐藤それから、ウィッグが中国で製造されていることを知り、200社近くにメールを送りました。世間ではITバブルが起こっていましたが、まだ病棟のテレビはブラウン管で携帯電話はガラケーの時代。いまのようにインターネットも発達していません。相手の会社のこともよくわからないけど、何か伝手を掴めないかと思って片っ端から送ったんです。

岩田反応は?

佐藤半分くらい返信があり、やり取りをはじめたのですが、だんだん返信が来なくなるし、ちっとも話が進まない。そこで半年後の夏に直接中国へ行きました。

岩田アメリカに住んでいたから英語は喋れるでしょうけど、中国語は?

佐藤喋れません。中国語が話せないことも忘れて現地に行ったんです(笑)

岩田交渉になりましたか?

佐藤工場を見学させてもらった後、支払いについて聞くと「Paypalで良いよ」と言ってくれたんです。オンライン決済のインフラが整っているなら私にもできるなと思い、ウィッグの製造をお願いし、5万円で会社を設立しました。

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Tsukuruhito

佐藤 真琴

佐藤 真琴

株式会社PEER
代表取締役

Company

株式会社PEER

病気、治療、病気の副作用と共に生きるすべての人が暮らしやすい社会づくりに貢献するサービスを作り、提供する。

この記事を書いたライター

是永 真人

是永 真人 ( これなが まさと )